はじめまして、菅原亮太と申します。
歯科技工士として12年働いてきました。
後半の5年は、勤めていたラボでCAD/CAM部門の立ち上げと運用を担当していました。
今はフリーランスで、歯科技工や歯科医療の分野の記事を書きながら、技工所の業務改善の相談に乗る仕事をしています。
技工所にうかがうと、決まって同じことを聞かれます。
「CAD/CAMを入れたら、技工士の仕事はどうなるんですか」
聞いてくるのは若手だけではありません。
50代、60代の開設者の方からも同じ質問を受けます。
この問いは10年前からずっとありました。
ただ、当時と今とでは前提がまるで違います。
10年前は「入れるかどうか」の話でしたが、今は「入っている前提で、何がどう変わったか」の話になっているからです。
この記事では、私が現場で見てきたことと、厚生労働省が公表している統計や検討会の資料を突き合わせながら、CAD/CAMが当たり前になった結果、技工士の仕事が実際にどこで変わったのかを整理します。
数字で言えることは数字で、まだ言えないことは「言えない」と書きます。
デジタル化の話は、期待も不安もどちらも大きくなりやすいので、なるべく手触りのあるところで書いていきます。
目次
「置き換わるかどうか」の議論は、もう終わっている
まず、置き換わり方の話からです。
私が現場にいたころは、「保険のCAD/CAM冠がどこまで広がるか」がラボの会話の中心でした。
今その議論をしても、あまり意味がありません。
数字を見れば、置き換わりはすでに大勢が決しています。
小臼歯はすでに6割がCAD/CAM冠
厚生労働省の社会医療診療行為別統計をもとにした、歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会の資料に、小臼歯の歯冠修復の算定回数の推移が出ています。
| 年 | CAD/CAM冠 | 全部金属冠(金銀パラジウム合金) |
|---|---|---|
| 平成27年 | 75,360回 | 344,230回 |
| 令和2年 | 148,566回 | 177,609回 |
| 令和6年 | 204,403回 | 140,154回 |
令和6年時点で、小臼歯の歯冠修復におけるCAD/CAM冠の割合は約59%です。
平成27年には金属冠の4分の1以下だったものが、10年で逆転しています。
小臼歯の全部金属冠は、この10年で6割近く減りました。
一方でCAD/CAM冠は2.7倍です。
現場の実感とも合います。
私が最後にラボにいたころ、保険のクラウンの箱を開けると、もう金パラより樹脂ブロックのほうが多い日がありました。
大臼歯も4本に1本を超えた
大臼歯は小臼歯より遅れて広がりました。
適用範囲が段階的にしか広がらなかったからです。
| 年 | CAD/CAM冠 | 全部金属冠(金銀パラジウム合金) |
|---|---|---|
| 平成30年 | 17,723回 | 582,676回 |
| 令和3年 | 58,717回 | 414,243回 |
| 令和6年 | 147,170回 | 387,288回 |
令和6年で約28%です。
まだ金属冠のほうが多いのですが、平成30年の3%程度からは大きく動いています。
しかも後で触れるとおり、2026年6月の改定で大臼歯の条件がさらに緩みました。
この割合は今後さらに上がっていくはずです。
つまり「CAD/CAMをやるかどうか」は、すでに選択の問題ではなくなっています。
問題は、そこから先で何が起きているかです。
1本あたりの時間は、思ったほど縮んでいない
デジタル化の効果を語るとき、いちばんよく出てくるのが「時間が短くなる」という話です。
これは事実なのですが、数字を見ると想像より地味です。
実測すると約15分の差
CAD/CAM冠と全部鋳造冠の製作時間を実測で比べたタイムスタディ調査があります。
竹井利香氏らによる2022年の研究で、厚生労働省の検討会資料にも引用されています。
- CAD/CAM冠の製作時間は中央値60分、平均66.7分
- 全部鋳造冠の製作時間は中央値77分、平均78.0分
- いずれもn=92で、統計的に有意な差
差は中央値で17分、平均で約11分です。
ざっくり15分前後、と言っていい範囲でしょう。
もちろん15分は小さくありません。
1日20本作れば5時間分です。
ただ、「デジタルにしたら仕事が半分になる」というイメージとは、だいぶ違います。
ワックスアップも埋没も鋳造も研磨も消えて、それでも1本あたり15分なのか、と思った方もいるかもしれません。
私も最初にこの数字を見たとき、少し意外でした。
実際、CADの設計そのものにはそれなりに時間がかかりますし、ミリング後の調整とステイン、グレージングは残ります。
機械が削り出したものがそのまま口に入るわけではないからです。
変わったのは「1本の時間」ではなく「工程の切り分け方」
では何が変わったのか。
私の実感では、変わったのは1本にかかる時間ではなく、工程の切り分け方でした。
アナログの補綴物は、基本的に1人の技工士が最初から最後まで持ちます。
模型を作った人がワックスアップをして、埋没して、鋳造して、研磨する。
途中で人を替えると、そこで情報が落ちます。
CAD/CAMになると、この流れが分解できます。
- 模型のスキャン
- CAD上での設計
- ミリングマシンでの加工
- ステイン・グレージング・仕上げ
このうち、スキャンと加工は装置がやります。
設計はパソコンの前でやるので、削りかすも石膏も飛びません。
仕上げは従来どおり手の仕事です。
つまり「機械に任せられる工程」と「人がやる工程」がはっきり分かれます。
分かれるということは、別々の人に、別々の場所に振り分けられるということです。
ここが、いちばん大きな変化だと思っています。
工程が分かれると、技工所のかたちが変わる
工程が分けられるようになると、次に起きるのは分業です。
ラボがラボに出すようになった
以前から、技工所が別の技工所に外注することはありました。
金属床だけ専門のところに出す、といった形です。
CAD/CAMが広がってから、この流れが一段はっきりしました。
ミリング工程だけを請け負う「技工所のための技工所」が出てきたからです。
たとえば横浜の歯科技工所である株式会社TDSは、渋谷に東日本ミリングセンター、長野に中日本ミリングセンターという拠点を持っています。
東日本ミリングセンターは、歯科技工所からの依頼を受けてCAD/CAM冠やジルコニアを製作する窓口です。
STLデータの送信でも、模型の送付でも受けられるようになっています。
こういう存在があると、装置を持たないラボでもジルコニアやCAD/CAM冠を扱えます。
設計まで自分でやってデータだけ送る使い方もできますし、模型ごと送ることもできます。
厚生労働省の検討会も、この方向を認識しています。
第7回検討会の議論の整理には、今後検討を進める必要があるものとして「歯科技工所の大規模化、歯科技工所間の連携の推進」が明記されています。
制度の側も「技工所との連携」を前提に書かれている
制度の書きぶりを見ると、この分業がさらにはっきりします。
日本補綴歯科学会が出している保険診療におけるCAD/CAM冠の診療指針2024には、CAD/CAM冠の施設基準が整理されています。
そこにはこう書かれています。
- 歯科補綴治療に係る専門知識と3年以上の経験を有する歯科医師が1名以上いること
- 保険医療機関内に歯科技工士が配置されていること。配置していない場合は歯科技工所との連携が図られていること
- 保険医療機関内に歯科用CAD/CAM装置が設置されていること。設置されていない場合は当該装置を設置している歯科技工所との連携が図られていること
3つ目が重要です。
装置を持たない歯科医院がCAD/CAM冠を算定するためには、装置を持つ技工所と組んでいることが要件になっています。
制度が、技工所を「連携先」として名指しで組み込んでいるわけです。
2026年6月から保険で評価されることになった3次元プリント有床義歯にも、同じ構造の施設基準が入っています。
一人ラボにとっては追い風であり向かい風でもある
分業は、規模の小さいラボにとって両方の意味を持ちます。
厚生労働省の衛生行政報告例によれば、令和6年の歯科技工所は20,278か所で、そのうち技工士1人の技工所が15,486か所です。
全体の約76%が一人ラボということになります。
一人ラボから見ると、ミリングセンターの存在はありがたい面があります。
数千万円の設備を持たなくても、デジタルの補綴物を扱えるからです。
一方で、加工を外に出すということは、その工程の利益を外に出すということでもあります。
自分の手元に残るのは設計と仕上げだけになる。
このバランスをどう取るかは、ラボの規模と受注構成によって答えが違います。
私が相談を受けるときも、ここは一律に「導入すべき」とも「外注すべき」とも言えないところです。
現場の不安は、まだ解けていない
ここまで書いてきたことは、どちらかといえば構造の話です。
現場の感情の話も、書いておかないと片手落ちになります。
「あとしまつ」をさせられるという声
東京歯科保険医協会が2024年に実施した全国歯科技工所アンケート調査の東京都分に、自由記述が載っています。
この調査は封書で1,606件に送り、回答は138件でした。
回収率は9.0%です。
調査主体も技工士の団体ではなく歯科医師の保険医団体なので、これを技工所全体の実態と読むことはできません。
そのうえで、書かれている内容には目を通す価値があります。
目を引いたのは、技術の空洞化を心配する記述でした。
CADが普及して基礎的な知識や技術のない人が作ったものの「あとしまつ」をさせられる、という趣旨の声です。
マニュアル車を扱えないままオートマ免許を取るようなものだ、という比喩もありました。
この感覚は、私も分かります。
CADのソフトは、咬合面の形態をライブラリから持ってきて自動でフィットさせることができます。
出てきた形は、それなりに見えます。
問題は、それが「それなりに見えるだけ」なのか「本当に合っている」のかを判断できるかどうかです。
判断できない人が使うと、そのまま出てしまう。
設備投資の壁
同じ調査には、設備投資に関する記述も並んでいました。
CAD/CAMが欲しいが高くて買えない、材料費と保守料が上がっている、補助金は個人ではほぼ通らない、といった内容です。
数字のほうも厳しく出ています。
- 技工士1人あたりの1日の労働時間は、9〜12時間が55件で最多。13〜16時間が32件、17時間以上も6件
- 開設者の1週間の休みは、1日が57件、2日が45件、ほとんど取れないが33件
- 昨年度の可処分所得は、200万円以内が34件で最多
繰り返しますが、これは回収率9%の調査です。
それでも、投資を検討できる体力があるかという話をするうえでは、無視できない分布だと思います。
「厚労省のCAD/CAM推進とリモートワーク解禁は技工士不足の解消に効果があると思うか」という設問には、「ないと思う」が76件、「あると思う」が26件でした。
現場の受け止めは、まだかなり冷めています。
ただ、身体は確実に楽になっている
一方で、同じ自由記述の中に、こういう趣旨の記述もありました。
今できる最大の防御としてCADシステムを導入した。
いざやってみると身体の負担が減る。
年寄り技工士のほうが向いているかもしれない。
これは50代から60代の開設者の記述です。
この感覚は、私も現場で何度も聞きました。
埋没材の粉を吸わない、バーナーの前に立たない、ハンドピースの振動を受け続けない。
腰も目も、明らかに違います。
デジタル化の話は「若手が有利」と語られがちですが、身体の負担という一点だけを見れば、恩恵が大きいのはむしろベテランのほうかもしれません。
少なくとも、私が見てきた範囲ではそうでした。
2026年6月の改定で何が変わったか
制度の話に戻ります。
今年、つまり2026年6月に施行された診療報酬改定は、技工士にとってかなり大きな内容でした。
厚生労働省の令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】から、技工に関係するところを抜き出します。
| 項目 | 改定前 | 改定後 |
|---|---|---|
| 歯科技工所ベースアップ支援料 | なし | 新設・1装置につき15点 |
| CAD/CAMインレー | 750点 | 770点 |
| 光学印象 | 100点(CAD/CAMインレーのみ) | 150点(CAD/CAM冠とインレー) |
| 内面処理加算1 | 45点 | 55点 |
| 3次元プリント有床義歯 | 準用点数 | 新設・1顎につき4,000点 |
| 模型調製の3次元デジタル加算 | なし | 新設・150点 |
歯科技工所ベースアップ支援料という新しい枠
いちばん注目したいのが、いちばん上の行です。
歯科技工所ベースアップ支援料は、1装置につき15点で新設されました。
令和9年6月以降は、所定点数の100分の200で算定することになっています。
この点数の性格は、算定要件と施設基準を読むとよく分かります。
- 歯科医師が交付した歯科技工指示書に基づき、補綴物等の製作を委託した技工所の技工士の賃金改善を評価するもの
- 保険医療機関内の技工士が製作する場合は算定できない
- 委託先の技工所が賃金改善の意向を有する場合に、その技工所と連携のうえで届出を行うこと
- 当該支援料を全て歯科技工所への委託費の増額に充てること
- 毎年8月に、前年度の賃金改善の取組状況を実績報告書として届け出ること
「全て委託費の増額に充てること」が施設基準に書き込まれている点が、これまでと違います。
2024年に新設された歯科技工士連携加算については、先ほどの東京の調査の自由記述で「技工士には入って来ない」「診療所の収入でしかない」という声が並んでいました。
今回の支援料は、その構図に対する制度側の答えにあたるものだと理解しています。
ただし、これは医療機関が届け出て算定するものです。
技工所の側から直接請求できるわけではありません。
委託先の医院が届出をしなければ、何も起きない。
実際にどれだけ機能するかは、これから見ていくしかないと思っています。
CAD/CAM冠の咬合支持要件が消えた
もう一つ大きいのが、CAD/CAM冠の算定要件の整理です。
改定前は、大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)を使う場合、装着する部位の対側に大臼歯による咬合支持があることが前提でした。
そのうえで同側の咬合支持の有無で細かい条件が分かれていました。
改定後は、この咬合支持に関する条件がまるごと削除されています。
「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又は(Ⅴ)を使用する場合」とだけ書かれる形になりました。
あわせて、後継永久歯が先天的に欠如している乳歯に使用する場合が新たに加わっています。
技工所から見れば、大臼歯のCAD/CAM冠の指示書がこれまでより増えるということです。
先ほどの28%という数字は、来年以降さらに上がるでしょう。
クラウン・ブリッジ維持管理料の対象範囲も見直され、すべてのCAD/CAM冠が対象になりました。
光学印象とデジタル模型が評価された
口腔内スキャナーまわりも動いています。
光学印象は100点から150点になり、対象がCAD/CAMインレーだけでなくCAD/CAM冠にも広がりました。
さらに模型調製に3次元デジタル加算150点が新設され、デジタル印象採得装置で3次元デジタル模型の製作や調整を行った場合に加算できるようになっています。
この加算には、取得したデータの取扱いについて厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守すること、という条件が付いています。
技工所にとって他人事ではありません。
医院から送られてくるのは患者の口腔内のデータです。
そのデータをどう保管し、どう受け渡すかという話は、これから確実に問われます。
なお、歯科診療所への口腔内スキャナーの普及率については、はっきりした公的統計を見つけられませんでした。
業界メディアには数字が出ていますが、調査主体や調査年が書かれていないものが多く、ここでは引用しません。
保険で評価される範囲が2回の改定で連続して広がった、という制度側の事実で判断するのが確実だと思います。
削れた時間の行き先は、たぶんチェアサイド
ここからは、もう少し先の話をします。
検討会が整理した3つの層
厚生労働省の歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会は、技工士がチェアサイドで関与しうる行為を3つの層に整理しています。
第7回検討会の資料2「歯科技工士の業務のあり方等について(案)」にある表です。
| 区分 | 具体的な行為 |
|---|---|
| 関与することが考えられる | シェードテイキング、人工歯選択、ろう義歯の試適、補綴装置の口腔内への着脱、床縁・咬合状態の確認 |
| 検討・整理が必要 | 口腔内スキャナを使用する印象採得、補綴装置の管理に関する患者指導、咀嚼能力検査、口腔内写真撮影、手指で口腔内に触れる行為 |
| 現時点で困難 | 支台歯形成、印象材を使用する印象採得、咬合採得、補綴装置の装着 |
歯科技工士法第20条は、技工士が印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならないと定めています。
3つ目の層は、この条文に直接かかる部分です。
注目したいのは真ん中です。
口腔内スキャナを使った印象採得が「検討・整理が必要」に入っています。
印象材を使う印象採得は困難な行為のままなのに、光学印象は別枠で議論されている。
デジタル化が、法律の解釈のほうを動かしはじめているということです。
なお、令和2年度の厚生労働科学研究の調査では、技工士がチェアサイドで診療の一部に携わることについて、賛成またはどちらかといえば賛成が技工士で87.1%、歯科医師で92.2%でした。
方向としては、双方が望んでいることになります。
シェードテイキングという分かりやすい例
3つの層のうち、いちばん上に挙がっているのがシェードテイキングです。
これは実務でも分かりやすい話だと思います。
色は、写真やシェードガイドの番号だけでは伝わりません。
隣在歯の透明感、切縁の色調、光の当たり方。
作る本人が見るのと、伝聞で聞くのとでは、まるで違います。
すでにサービスとして提供しているラボもあります。
先ほど触れた横浜の技工所は、技工士が治療に立ち会って患者の口腔内を直接確認しながら色を合わせるシェードテイキングを、デジタル技工や医院経営サポートと並ぶ3つの特徴の一つとして掲げています。
こうした日々の製作工程や職場の様子は、株式会社T.D.Sが運営している公式Instagramでも発信されています。
制度の議論が固まる前から、こういう動きは現場で先に始まっています。
検討会の資料を読んでいて、「これはもう何社かやっているな」と思ったのが正直なところです。
デジタル化で削れた時間が、こちらに向かうのは自然な流れだと思います。
機械が引き受けられるのは、形を削り出すところまでです。
患者の口の中を見て判断する部分は、機械には渡せません。
自宅で設計できるようになったことの意味
働く場所の話も、制度が動いています。
令和4年3月31日付の厚生労働省医政局歯科保健課長通知「歯科技工におけるリモートワークの実施について」により、CAD/CAM装置等を用いた自宅等でのリモートワークが可能であることが明確化されました。
歯科技工士法施行規則も改正され、技工所の届出事項にリモートワークを行う者が追加されています。
条件も整理されています。
- リモートワークを行うのは、歯科技工所で業務に従事する歯科技工士であること
- リモートワークで行える歯科技工は一定の範囲に限られること
- 業務を適切に管理するため歯科技工録を作成すること
- 個人情報の適切な管理のための特段の措置を講じること
対象になるのは、切削加工や研磨を行わない、コンピュータを用いた設計等の工程です。
だから、リモートワークを行う場所には防音装置や石膏トラップといった構造設備は要りません。
この通知の内容は、厚生労働省が公開している資料で確認できます。
構造設備の基準にまで影響が及んだ、というのが個人的には興味深いところです。
技工所は音と粉が出る場所だという前提で法律が作られていたのが、設計工程だけを切り出せば当てはまらなくなった。
工程が分かれるというのは、そういうことでもあります。
育児や介護で通勤が難しい技工士が、設計だけ担当して働き続けられる。
これは離職を減らす方向に効くはずです。
これから技工士に求められるもの
最後に、私がいま若手に伝えていることを書きます。
CADの操作自体は、いちばん簡単な部分
CADソフトの操作を心配する人は多いのですが、ここはあまり心配しなくていいと思っています。
歯科用のCADソフトは、汎用の3D CADとは違います。
補綴物を作ることに特化していて、手順もほぼ決まっています。
プログラミングの知識は要りませんし、操作の大半はマウスで完結します。
私が部門を立ち上げたときも、いちばん覚えが早かったのは入社2年目の子でした。
1か月もすると、基本的なクラウンは1人で設計していました。
難しいのは、機械が出した形を疑えるかどうか
難しいのはそこではありません。
出てきた形を見て、「これは違う」と言えるかどうかです。
CADは、指示された条件のなかで妥当な形を提案します。
提案してくるだけです。
隣在歯とのコンタクトが強すぎないか。
対合歯との関係でこの咬頭は当たりすぎないか。
マージンのラインは支台歯の形成に沿っているか。
この患者の年齢と咬合状態で、この形態は妥当か。
これらは、機械が代わりに判断してくれません。
そして判断するためには、実際に口の中に入ったものがどうなるかを知っている必要があります。
つまり、アナログの経験が要らなくなったわけではないのです。
使いどころが変わっただけです。
昔は、その知識を「手を動かして形を作る」ために使っていました。
今は、「機械が出した形を評価する」ために使います。
先ほどの「あとしまつ」という声は、ここを言い当てていると思います。
形を作る工程を機械が引き受けた分、評価する能力の差がそのまま製品の差になる。
若手にとっては、意識的に取りに行かないと身につかない能力になったということでもあります。
昔は手を動かしていれば自然と溜まっていたものが、そうではなくなった。
だから、装着まで見せてくれる医院との関係や、チェアサイドに出る機会が、以前より重要になっていると感じています。
まとめ
長くなったので、整理します。
- 保険統計上、小臼歯の歯冠修復はすでに約59%がCAD/CAM冠。置き換わりの議論は終わっている
- 1本あたりの製作時間の差は実測で15分前後。劇的ではない。変わったのは工程の切り分け方
- 工程が分かれたことで、ラボ間の分業とミリングセンターへの外注が現実的な選択肢になった
- 制度もそれを前提に書かれていて、CAD/CAM冠や3次元プリント有床義歯の施設基準には技工所との連携が組み込まれている
- 2026年6月の改定で歯科技工所ベースアップ支援料が新設され、委託費の増額に全額充てることが施設基準に明記された
- 一方で、設備投資の壁や技術の空洞化への懸念は現場に残っている
- 検討会では、技工士がチェアサイドに出る議論が具体化している。削れた時間の行き先は、たぶんそこ
厚生労働省の推計では、2034年の就業歯科技工士数は約2万7千人とされています。
2035年の需要推計は、効率化が5%なら約2万7千人、20%なら約2万3千人です。
ここは冷静に読む必要があります。
国は「技工士が減るから1人あたりの仕事が増える」とは考えていません。
デジタルで効率化が進む前提で、需要のほうも減ると見積もっています。
だとすれば、効率化で浮いた分が技工士側に還らないかぎり、人が減るだけで終わってしまう。
今回のベースアップ支援料が、その流れを変えられるかどうか。
私はここを見ています。
CAD/CAMが技工士の仕事を奪うのかという問いに、私なりに答えるとすれば、こうなります。
奪われたのは工程であって、仕事ではありません。
ただし、工程が奪われた分だけ、判断の質が問われるようになりました。
そこは、まだしばらく人の領分だと思っています。
最終更新日 2026年8月21日 by usagee
