高額な費用をどうする?マンション修繕積立金の正しい増やし方

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「修繕積立金が、来月から3倍になります」

理事会でこの通知を受け取ったとき、あなたの心臓は一瞬止まったかもしれません。

「毎月の負担が増えるのは困る」「なぜこんなに急に値上げが必要なのか」と、住民の皆さんから戸惑いや怒りの声が上がるのは、当然のことです。

実際に、私のコンサルティング経験でも、積立金の値上げが原因で管理組合の人間関係がこじれてしまうケースを数多く見てきました。

特に築年数が経過したマンションでは、3割以上で修繕積立金が不足しているというデータもあり、この問題は決して他人事ではありません。

しかし、安心してください。

この記事は、単なる「値上げの必要性」を説くものではありません。

私はこれまで、全国120件以上のマンションで修繕計画の立案に携わってきた、“直す”ではなく、“育てる”修繕を語る建物ストーリーテラー、佐久間悠人(さくま ゆうと)と申します。

この記事では、高額な費用をどう確保するかという問いに対し、「値上げ」以外の視点も含めた正しい積立金の増やし方(確保の仕方)を、私の実務経験と専門知識に基づいて徹底的に解説します。

この記事を読み終える頃には、「修繕は怖いもの」ではなく、「未来の資産を育てる投資」だと、前向きに捉えられるようになっているはずです。

さあ、あなたのマンションの未来を一緒に守りましょう。

修繕積立金が「足りない」という現実:なぜ高額になるのか?

なぜ、私たちのマンションの修繕積立金は、こんなにも高額になってしまうのでしょうか。

その背景には、主に二つの構造的な問題が存在します。

まずは、問題の根源を正しく理解することから始めましょう。

多くのマンションが直面する「段階増額方式」の衝撃

多くのマンションで積立金が不足する最大の原因は、新築時の積立計画の「甘さ」にあります。

新築マンションを販売する際、初期の月々の積立金を低く抑えることで、購入者の負担感を減らし、物件を魅力的に見せる販売戦略が取られてきました。

この戦略で採用されるのが「段階増額方式」です。

これは、「最初は安く、後から段階的に値上げしていく」という仕組みです。

その結果、築10年、20年と経過し、いざ大規模修繕が必要になるタイミングで、積立金が一気に2倍、3倍、場合によっては4倍近くに跳ね上がるという衝撃的な事態が発生します。

住民説明会で涙ながらに「このマンションが私たちの人生です」と語った住民の言葉が、私の原体験です。

その人生を守るためにも、この方式の「後回し」の姿勢から脱却することが急務です。

「新築時の甘い計画」と「物価高騰」という二つのボディーブロー

積立金不足は、新築時の計画の問題だけでなく、近年の社会情勢からも大きな影響を受けています。

新築時の計画が実態と合わない

長期修繕計画は、本来、建物の寿命を延ばすための「マンションの海図」のようなものです。

しかし、新築時に作成された計画は、あくまで「机上の計算」であり、実際の建物の劣化状況や、当時の物価水準で算出されています。

特に、配管(建物の血管のようなもの)の交換など、高額な工事費用が見積もられていないケースも少なくありません。

建設資材・人件費の物価高騰

さらに、近年は建設資材の価格や人件費が急激に高騰しています。

10年前に立てた計画の工事費が、いざ実施する段階で1.5倍になっている、というケースも珍しくありません。

この「甘い計画」と「物価高騰」という二つのボディーブローが、管理組合の財政を圧迫しているのです。

積立金を「増やす」ための3つの王道戦略(値上げだけではない)

積立金を確保するためには、単に「値上げする」という議論に終始するのではなく、長期的な視点に立った戦略が必要です。

ここでは、私がコンサルティングで最も重視する、積立金を正しく「育てる」ための3つの王道戦略をご紹介します。

戦略1:長期修繕計画の「5年ごと見直し」による最適化

長期修繕計画は、一度作ったら終わりではありません。

国土交通省のガイドラインでも、「5年程度ごと」の見直しが強く推奨されています。

これは、建物の劣化は計画通りに進むわけではなく、また社会情勢も変化するからです。

工事内容と周期の適正化

見直しでは、以下の点を徹底的に検証します。

  1. 工事の優先順位の見直し:本当に今、その工事が必要か?
  2. 工事周期の延長の可能性:例えば、外壁塗装の周期を12年から15年に延ばすなど、建物の状態に応じて延期できないか。
  3. 仕様のグレードの見直し:過剰なグレードアップになっていないか。

計画を見直すことで、無駄な支出を削減し、積立金の使途を最適化することができます。

戦略2:積立方式の「均等方式」への早期切り替えと資金運用

段階増額方式の根本的な問題を解決するのが、「均等積立方式」への切り替えです。

均等積立方式への切り替え

均等積立方式は、将来の修繕費用を見越して、最初から最後まで毎月の積立額を一定にする方法です。

この方式に早期に切り替えることで、将来の大幅な値上げを避け、住民の心理的な負担を軽減することができます。

もちろん、初期の負担は増えますが、「将来の安心」を買うと考えれば、最も誠実な方法です。

余剰資金の安全な運用

積立金は、原則として大規模修繕に備えて積み立てるものですが、次の工事までに期間が空く場合、余剰資金を安全に管理・運用することも一つの戦略です。

ただし、これはあくまで「安全」が大前提です。

元本割れのリスクがある投資ではなく、国債や定期預金など、確実に元本が確保される方法を選ぶべきです。

戦略3:国交省ガイドラインで「適正水準」を知る

あなたのマンションの積立金が、そもそも適正な水準にあるのかどうかを知ることも重要です。

国土交通省のガイドラインでは、マンションの規模や階数に応じた、専有面積あたりの修繕積立金の月額目安が示されています。

マンションのタイプ月額目安(円/㎡・月)
10階建て未満200〜260円
15階建て未満220〜300円
20階建て未満250〜330円
20階建て以上280〜380円

(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」より抜粋・目安)

例えば、専有面積70㎡の15階建て未満のマンションであれば、月々15,400円〜21,000円程度が目安となります。

あなたのマンションの積立金がこの目安よりも大幅に低い場合、将来的に大幅な値上げが必要になる可能性が高いと客観的に判断できます。

【佐久間流】「見える修繕」で積立金への納得度を高める方法

積立金を「増やす」議論で最も大切なのは、住民の皆さんの「納得感」です。

私が提唱する「見える修繕」は、この納得感を高めるためのコミュニケーション手法です。

失敗から学んだ「安さ優先」の罠と品質の見える化

独立初期、私は工事費の見積もり調整で複数業者を競合させすぎた結果、安さを優先したことで工事の品質が落ちたという苦い経験があります。

「安さ」は一時的な満足を与えますが、品質が落ちれば、建物の寿命を縮め、結果的に次の修繕費用を高めてしまいます。

この失敗から、私は「価格の透明性」と「品質の見える化」を徹底するようになりました。

「価格の透明性」を確保する

見積もりの内訳を細かく分析し、「この工事にいくらかかるのか」を住民の皆さんに明確に示します。

単なる合計金額ではなく、材料費、人件費、諸経費のバランスを公開することで、不当な価格ではないことを証明します。

「品質の見える化」を徹底する

使用する塗料の耐久性、工法のメリット・デメリット、そして「なぜこの仕様があなたのマンションに最適なのか」という理由を、専門用語を使わず、生活感ある比喩(例:耐久性の高い塗料は「建物の皮膚を守る日焼け止め」のようなもの)を交えて伝えます。

予算よりも、「納得」を優先しましょう

住民説明会を「納得の場」に変えるコミュニケーション術

積立金の値上げや大規模修繕の合意形成は、管理組合のチームプレーです。

住民説明会は、一方的な発表の場ではなく、「一緒にマンションの未来を考える場」に変える必要があります。

  • 「瓦版」による事前情報公開:説明会前に、修繕の必要性や積立金の現状をまとめた分かりやすい資料(瓦版のようなもの)を全戸に配布し、事前に疑問点を集めます。
  • 「質疑応答」の時間を最大限に確保:住民の不安や疑問を一つ残らず解消することが、合意形成の鍵です。
  • 「建物は、“人が育てる生きもの”です」というメッセージを共有:修繕は義務ではなく、資産価値を守り、暮らしを未来へつなぐための「投資」であることを伝えます。

難しい話をわかりやすく噛み砕く語り口で、住民の皆さんの不安を安心に変えていくことが、私の使命です。

予算よりも「納得」を優先するために:管理組合が取るべき最初の一歩

高額な修繕費用に直面したとき、管理組合として「明日できる一歩」は何でしょうか。

それは、現状を正しく把握し、信頼できる相談相手を見つけることです。

まずは「長期修繕計画」の健康診断から

あなたのマンションの長期修繕計画は、今、健康な状態にあるでしょうか。

計画が現状の建物や物価に合っているかどうかをチェックする、「計画の健康診断」を最初に行ってください。

  • チェックポイント1:計画が直近5年以内に見直されているか?
  • チェックポイント2:給排水管やエレベーターなど、重要設備の交換時期が正しく盛り込まれているか?
  • チェックポイント3:積立金の残高が、次の大規模修繕の予定費用をカバーできる見込みか?

この診断結果こそが、積立金の値上げや、計画の最適化という次の行動を起こすための、最も重要な根拠となります。

信頼できる「建物ストーリーテラー」の選び方

管理組合の理事や担当者は、修繕の専門家ではありません。

だからこそ、外部の専門家、つまり修繕コンサルタントの力を借りるべきです。

例えば、マンション改修設計のプロフェッショナル集団である株式会社T.D.Sのような、実績豊富なコンサルティング企業を検討するのも一つの方法です。

ただし、業者選定・見積もりの「裏側」まで見抜くためには、以下の視点を持ったコンサルタントを選んでください。

  1. 「修繕計画の立案」に特化した実績があるか:工事の受注ではなく、計画や監理を専門としているか。
  2. 住民とのコミュニケーション能力が高いか:難しい話を分かりやすく伝え、合意形成をサポートできるか。
  3. 価格の透明性を重視しているか:安さだけを売りにせず、品質と価格のバランスを明確に説明できるか。

私は、読者の皆さんが「安心して質問できる相手」でありたいと思っています。

専門家任せにせず、“一緒に考える相談相手”として、あなたのマンションの未来をデザインしてくれるパートナーを見つけてください。

結論(まとめ)

高額な修繕積立金の問題は、多くのマンションが直面する、避けて通れない課題です。

しかし、この課題は、マンションの未来を「育てる」ための最大のチャンスでもあります。

この記事で解説した、積立金を確保するための重要なポイントをもう一度確認しましょう。

  • 問題の根源:新築時の「段階増額方式」と「物価高騰」の二つにある。
  • 王道戦略:長期修繕計画の「5年ごと見直し」、積立方式の「均等方式」への早期切り替え、そして国交省ガイドラインによる「適正水準」の把握が必須。
  • 納得感の醸成:「価格の透明性」と「品質の見える化」を徹底する「見える修繕」で、住民の合意形成を促す。

修繕は、壊れたものを直すだけではありません。

それは、人の記憶や暮らしを未来へつなぐ仕事です。

建物は、“人が育てる生きもの”です。

あなたがこの記事で得た“知識の安心”を武器に、管理組合として最初の一歩を踏み出すことを心から応援しています。

「もう修繕は怖くない」と思える、そんな未来を一緒に創り上げていきましょう。

最終更新日 2025年11月9日 by usagee